stillness
夢でもいいさ。今が僕にとっての現実なんだから。それが全てなんだ。君の部屋に僕と君がいる。僕は夜から身を守るようにクッションを抱えている。君はお気に入りのジャックダニエルをなめている。いつもの夜だよ。変わることのない、永遠にも似た夜だ。僕と君でずっと、終わることなく話を続けている。眠ることを忘れる夜。
見ている夢は昔も今も変わらない。夜に震える幼い少年、それが僕。夜に脅える青年、それも僕。
僕は、夜に脅えて眠る夢を見る。何年も何年もそれが続いた。今夜も夢を見て眠らなきゃいけないのか。それが嫌で夢から逃げる。逃げて飛び込む先は君の部屋なんだ、いつも。
君が僕にしてくれた話はとりとめのない、平和な昔の記憶。古代の記憶、昨日見た夢。夜明けを知っている君の夢。
「ねぇ」ジャックダニエルをなめながら今夜の君は本を読んでいた。延ばした金属のブックマークをはさむ。「明日、どこかに行こうか」
明日、なんてあと十分もすればくるのに。
「からかわないでよ」
そう言って君は笑った。僕も笑った。君はボトルに手を伸ばす。中身はもう殆どなくなっていた。底に琥珀色の液体がわずかに、残っているばかりだ。
「なくなっちゃった」
寂しそう。ボトルを逆さにすると、ポトリとグラスに雫が落ちた。一口分もない。
「買いにいかなくちゃ」
こんな真夜中に?
「そうよ。近くに二十四時間営業の酒屋があるの。いつもそこで買ってるのよ
君は外に出る準備を始める。開け放した窓を閉めて、カーテンを引いて、長袖のシャツを着て、部屋の鍵を探す。もしかして僕も一緒に行くの?
「何言ってるの。当たり前じゃない。こんな真夜中に女一人で外歩かせる気? それとも、ジャスミンと一緒に待ってる?」
わかったよ、僕も行くよ。君の部屋は嫌いじゃないけど、独りでいるのは絶対に嫌だ。夜に独りになるのは嫌だ。