03/11
■剣を拾う前の話
換気扇を回しつつ、窓辺でゆっくりと煙をくゆらす。赤いトランジスタラジオからは渋いDJの声が流れていた。冷めかけたインスタントコーヒーを傍らに置き、サッカーの紅白試合中の校庭を眺める
私物化の進む保健室で常盤は優雅な午後を過ごしていた。
「常盤センセー」
「あん?」
ぞんざいに返事し、常盤は煙草を灰皿に押しつけた。
三年の新堂が勝手に入ってきて勝手に常盤の机を占領する。スチールデスクの上にコンビニの袋を載せて中身を並べた。大盛り牛肉弁当と500ミリパックのコーヒー牛乳、インスタントスープにポッキーの箱。
「何しに来た」
常盤はまた煙草に火をつける。新堂だとわかったら遠慮はいらない。
「レンジ借りに来た」
小型冷蔵庫の上にある電子レンジに大盛り牛肉弁当を入れる。
「あと、お湯ももらう」
インスタントスープの蓋を開け、ポットからお湯を注ぐ。カップに箸を突っ込んでぐるぐると回す新堂は実に慣れた様子だった。
「お前さ」と常盤は校庭を見たまま新堂に言う。「ここで飯食うのやめろ」
「いいじゃん。ここにレンジあるんだし、お湯もあるんだし。ちゃんとお礼もしてるし」
新堂が差し出したポッキーの箱を、常盤はひったくるように取る。
「それと、これは飯じゃなくておやつ」
真面目な顔で新堂は言う。一日五食必要とする彼にとってこの程度の量は間食に過ぎない。その豪快な食べっぷりは、見ているほうはややうんざりするほどだ。出会った頃は腹を壊すぞ、と言い続けてきたが、その健啖ぶりにいつしかそんな言葉も忘れてしまった。
「毎回お前に付き合わされる天海君には同情するよ」
「あー、大丈夫だって。あいつは絶対奢ってくんないもん」
それも当然だ、と煙を吐きつつ常盤は言った。一度新堂に食事を奢ったが、常盤でさえそのすさまじい量に懐の危機を感じたのだ。
「不良学生」
「不良教師」
お互いに見合い、にやりと笑う。