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■クライシス・リージョン

「右斜め右下下A連打キャンセル上斜め右上右斜め右下下斜め左下AB(同時)煉獄剣!」
 一気に相手との距離を詰め、踏み込んで剣を袈裟懸けに振り下ろした。
 刀身に纏わりついていた炎が勢いを増し、人に似た異形に襲いかかる。
 断末魔をあげ、異形は炎上する。
「うっしゃ、次来い!」
 剣を構えなおし、ラフィアスは他の異形に向き直った。その大声は異形たちには恫喝にしか聞こえない。
「何。その長ったらしいの」
 道端の大岩に腰掛けたシャーリンが呆れたようにラフィアスを眺めていた。
「この前異世界の書物で学んだ必殺技だ」
「その右なんとかっていう前置きは必要なの?」
「知らん」
 タンパク質が焼ける匂いに顔をしかめながらも、ラフィアスは異形たちを挑発する。魚類のような頭部を有する異形たちの表情はよく分からないが、怯えているであろうことは分かる。中には鋭い爪を引っ込めて海へ逃げ帰る者もいる。水地を住まいとする異形たちにとって、火は恐るべきものだった。
 ラフィアスが炎を武器とする強敵と認識すると、異形たちの標的はシャーリンへと移行しつつあった。
 しかし、当のシャーリンは赤い髪をかきあげながら見物中。近寄ろうとする異形は一睨みで追い返す。力のこもった赤い瞳に睨まれ、相手が小娘であるにも関わらず、異形は動揺する。それでも寄って来る豪の者には符を投げつけた。
 符は異形の全身を覆う鱗に張り付き、小さな爆発を起こした。小爆発と言えど、片腕が吹き飛んでしまうほどの威力だ。
 たかが海の異形では、シャーリンに敵うはずもない。むしろ剣を振りまわしているラフィアスよりも強いくらいなのだ。
「死にたいならまとめて殺してあげるわよ。そのほうが符の節約にもなるしね」
 少女のように明るく笑うシャーリン。笑顔そのものは歳相応であるものの、実力はそこいらの魔術師とは桁違いだ。
「ラフィ、するならとっとと始末してよ。時間の無駄」
 少し間を置き、異形たちが一斉にラフィアスに襲いかかってくる。人間の言葉を理解するだけの知能があるのかどうかはわからないが、バカにされたことだけは理解したらしい。魚眼を真っ赤に染め、怒りもあらわに爪を振りかざす。
「そう来ないとな!」
 嬉々として剣を握るラフィアス。剣の柄に埋めこまれた珠に軽く触れた。
「当社比1.5倍!」
 剣を中心に据えた火柱が、使い手の背丈を超す勢いで延びる。巨大化した剣を軽く振り、
「まず一匹」
 異形を軽く撫でただけでその姿は炭と化した。

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