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■1日目
嫌なことがあったら、明日は何かいいことがあるといいな。
いいことがあったら、明日も何かいいことがあるといいな。
そう思って深い眠りに入る。
ほとんど夢も見ないような深い眠り。仮に夢を見ていたとしても、覚えていない。夢を見ていたことすら、覚えていない。そのくらい、眠りが深い。
眠ればすべてを忘れられる。一時だけだが、現実から離れることができる。
だから俺は睡眠が好きだ。人間の三大欲求ののうち、他二つはなくてもいい。眠ることが幸せだ。
しかし、朝は必ず来る。朝になったら目を覚まして朝飯を食べて学校に行く。そんな日常を繰り返す。
「雅樹ぃーっ! おはよぉーっ!」
げふっ。
唐突に意識が浮上する。腹部への衝撃および圧迫感が俺を現実に引き戻した。
「……みずなぁ〜」
恨めしげに俺は腹の上の物体を見る。
黒髪がもぞもぞと動き、その塊から額と目と鼻と口が出現した。その目がじーっと俺を見つめている。
短いスカートはめくり上がり、中身が見えそうになっている。見えたところで、まあ、いつものことだから気にもしないんだけど。
まあ、つまり、女の子と呼ばれる生物が布団の上から俺に覆い被さっているわけである。
「起きた?」
「起きた」
「痛い?」
「痛いけどお前のタックルにはもう慣れた」
俺の返事に満足したように微笑むと、女の子――みずなは俺の頭をぽんぽんと二回軽く叩いた。
「いつまでも子供扱いしてんなよ」
お返しにみずなの頭をぐしゃぐしゃとかき回した。せっかくセットしたのにぃー、と不満の声が俺に返ってくる。
「わたしにとっては雅樹はまだ子供だよー。小さい頃から一緒じゃない」
家も近所だし、たしかに幼い頃から良く遊んでいた。しかも今となっては俺を毎朝起こしに来てくれる。放っておくと学校に行かないで寝ていそう、とはみずなの弁。それは言い過ぎだけど、可能性がなくもないのが我ながら情けない。