07/11
■迷惑メール
木村からメールが来た。
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■□押す□■
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典型的なチェーンメール。画面をスクロールさせなくても続きは知っている。この後には「指紋がついたでしょ」という一文が続く。
「まったく、こんなの送るヒマがあるなら少しでも金返せっての!」
俺は木村の下宿へ自転車を走らせながら毒づく。
木村の肩書きは悪友。悪いことをする仲間、というよりは、悪いことしかしない友人と言ったほうが正しいだろう。誰に聞いても苦笑いされるという、素敵な評判を持つ野郎だ。
本当にどうしようもないやつだ。借りた物をなかなか返さない。かく言う俺も金はもちろん、本にゲームにCDに目覚し時計まで、かなりの量を貸している。幼馴染じゃなかったら確実に見捨てている。
で、今日はそんな木村さんのお宅から俺の所有物を回収する日というわけ。二ヶ月に一回は奴の家に押しかけないと、どこぞに埋もれてしまう。埋もれてしまうならまだいいな。売られたり捨てられたりしたら、という最悪の状況がいつも俺の頭の中にある。
右手に携帯。左手に折り畳んだ紙切れ。紙切れは他の友人からの回収依頼。ありとあらゆる物が一覧となって書いてあった。講義のプリントの裏一面をびっしりと埋める文字。これ全部持って帰れねぇよ。
憂鬱半分、怒り半分。よくもまあ、これだけ借りたもんだ。それでいて本人はこんなメール送ってくるし。
「……あんの野郎!」
立ちこぎした拍子に携帯の画面に触った。
「あ、やべ。指紋ついちまう」
スピードを緩めた俺の耳に遠い笛の音が聞こえた。打ち上げ花火みたいな音だ。何だ、と思う間もなく、
辺り一体に轟く爆音。
衝撃は正面からやってきた。風が乱暴に髪をなぶり、容赦なく顔面に砂粒が叩きつけられる。バランスを失い、倒れる自転車から手を離して怪我だけはまぬがれる。
少ない通行人から発せられる驚きと怒号。家々の窓が開け放たれ、寝起きと思しき大学生が顔を出す。
身を起こした俺が見たのは、目を疑うような光景だった。
木村の安アパート、それもしっかり奴が住んでいる二階の端の部屋に、ロケットが突き立っていた。