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■コンビニ
コンビニエンスストアはいつも明るい。
どんなに暗い夜でも光をたたえてそこにある。
そんなことを言ったのは前の前の彼女だったか。
俺の家に遊びに来るときは必ずコンビニの袋を下げていた。「おみやげ」と言って広げるその中身は実に多彩で、カップ麺があれば栄養ドリンクもある。彼女が買うものは全く統一されていなかった。
家に帰るときは必ず立ち寄り、パンなり中華まんなりを買って食べていた。
夜、家にいなければコンビニにいた。
「夜は危ないから出歩かないでくれ」
何度も言ったが、彼女は聞かなかった。コンビニのおにぎりを食べながら寂しげな顔を俺に向け、
「ごめんね。でも、私にとってコンビニって大切なの」
そう言った。いつも同じ返事だった。
コンビニエンスストアには何でもある。ひとりの夜でもそこにある。
その明かりが誘蛾灯のように彼女をコンビニへと導く。
そこにあるのは商品だけじゃない。店員もいる。店員は無表情で与えられた仕事しかない。けれど、いるというだけで彼女は安心する。自分が世界にたった一人だけでないことを認識させてくれる。
コンビニがあれば、膝を抱えて泣く夜も落ち着ける。店に行ってオレンジ色の籠をいっぱいにすれば、心もいっぱいになる。
彼女に必要なのは俺ではなかった。前の前の彼女はそんな女だった。