2日目

 あるところに小さなウサギの女の子がいました。赤い目に白い髪、そしてぴんと立った長い白耳を持つ元気のいい女の子です。
 ウサギの女の子はひとりでした。少し前までは幼いながらも仕事をしていましたが、干されてしまったので、ひとりで旅をしたりアルバイトをしたりしていました。ほんのちょっぴりさみしいけれど、行く先々で親切な人に出会っていたのでそれなりに充実していました。
 そんなある日、女の子は一通の手紙を受け取りました。峠の茶屋でのアルバイト中、サボってみたらし団子を食べていたら、飛脚のお兄さんが投げてよこしたのです。
 手紙は女の子の耳と同じ、まっ白い封筒に入っていました。女の子は器用に封を切り、とりあえず便箋を開いてみました。
「これは……を……ている……???」
 女の子は文字が読めませんでした。簡単な字ならともかく、難しい字は全然読めませんでした。これまで文字を教えてくれる人もいなかったし、読む必要もなかったからです。
 紙をひらりと目の前にかざして女の子はうーんとうなりました。読めないものはムダなものです。見なかったことにして捨ててしまい、すっかり忘れてしまうのが一番かもしれません。だけど、わざわざ飛脚のお兄さんが女の子に渡してきたものです。もしかしたらとっても重要なお手紙かもしれません。
「おねえちゃんからかも」
 かつてお世話になったメイドのおねえさんの姿が思い浮かびました。強くてかっこよくてかわいいメイドさんです。ウサギの女の子はそのおねえさんに憧れていました。
 おねえさんからのお手紙だったら捨ててしまうわけにはいきません。何が何でも解読しなければなりません。
 その時、お店にお客さんが入ってきました。女の子がすっぽり入りそうな長い緑色のコートを着た、とてもとても大きな男の人でした。小さなウサギの女の子が背伸びをしても顔が見えないくらい、背の高い人でした。
 女の子はこの人に読んでもらうことにしました。背伸びをしつつ、がんばってお願いすると男の人は親切に読んでくれました。
 男の人はこの手紙はパーティーの招待状だと教えてくれました。そしてパーティーはとある島で行われるとも。
 ウサギの女の子はバカなのであまり難しいことはわかりません。だけど、これが楽しそうなことだということくらいはわかりました。
 「行ってみようかなー」とつぶやくと、男の人は島への行き方を教えてくれました。


 そしてウサギの女の子は招待状をにぎりしめ、島へとやってきました。島にはすでにたくさんの人が集まっていました。普通の人、動物の耳が生えた人、そもそも人型をしていない人などなど、見たことない人がいっぱいいます。
 お店も出ていてなんだかにぎやかです。物珍しさにウサギの女の子はきょろきょろあたりを見回しながら歩いていました。すると、にぎやかな人々の中に見覚えのある背中がありました。
「お手紙のおじちゃん!」
 そう、峠の茶屋で文字が読めない女の子に代わって招待状を読んでくれた男の人です。人混みの中にいるせいか、男の人は女の子に気づいていないようでした。それでもがんばって近づいて見上げると、やはり背が高すぎて顔が見えません。
 女の子は長いコートの裾を引き、もう一度呼びかけました。おじちゃんと呼ばれて男の人はちょっとむっとしたようでした。小さな女の子にとっては年上の大きな男の人はみんなおじちゃんでした。
「えへへ。おじちゃんも招待されていたんだね」
 知らない人たちの中で知っている顔を見つけるととても心強くなれます。右も左もわからず、さらには何をしていいのか、何をすべきなのかもわからない女の子は、男の人に一緒に連れて行ってもらうようお願いしようと思いました。
 あのね、と言いかけた口はそのまま止まってしまいました。
 女の子が大きいなーと思っていた目の前の男の人よりも大きな影が現れたからです。その巨大なシルエットは、荒波を超えた不屈の海の男のようなとてつもないオーラをまとっていました。どこからか流れてくる重低音の効果音とともに男の人の背後に立っていました。ザパーンと岩に砕ける波の飛沫すら見えそうでした。
 笑顔が固まったままの女の子を不思議そうに見ていた男の人が、ふと振り返りました。
 男の人も絶句してそのまま止まってしまいました。
 その影は女の子と同じウサギのようでした。ただし全身ピンク色で、ウサギの女の子を二人分重ねたくらいの大きさがありそうでした。もちろん女の子にはこの大きなウサギの頭のてっぺんが見えていません。
 これまで不思議なものをたくさん見てきた女の子でしたが、さすがにこの巨大なウサギは予想外でした。すっかり頭の中が真っ白になってしまいました。
 巨大ウサギがしゅびっと片手を上げました。ごあいさつのようでした。女の子と男の人も釣られて同じように手を上げました。
 すると巨大ウサギの背後から男の子の顔が出てきて、やはり片手を上げました。それまで固まったままだった女の子の赤い目がキラキラと輝きだしました。
「か、かっこいいー! つよそー!!」
 興奮する女の子の頭を、指がない大きな手がポンとなでました。



『○がつ×にち

 おてがみもらった
 よんでもらった
 しまいった
 かっこいいのいた』

(メイファの日記より抜粋)

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